大判例

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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11913号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

訴外吉田<編注――売主>は、すし屋のチェーン店を営むための土地の購入方の仲介を原告に依頼したものであるところ、原告代表者長島勝三郎(以下「長島」という。)は、昭和五三年一月二〇日過ぎころ、訴外清水一弥に適当な物件の有無を電話で問い合わせた。清水は、自宅近くに「売地」との立札の立つている本件土地があることを長島に伝える一方、立札の記載を頼りに被告に電話をかけ、本件土地が売却済となつていないかどうか尋ねた上、不動産屋から売買につき問合せがあるから是非売つて貰いたい旨述べたところ、被告から売却の意向のある旨の返事を得られたので、長島にその旨を伝えた。ところで、原告同様訴外吉田から土地の購入の仲介方を依頼されていた訴外株式会社太洋不動産(以下「太洋不動産」という。)は、そのころ原告に対し適当な物件の有無を問い合わせたところ、既に清水を通じて本件土地につき情報を得ていた長島から、適当な物件がある旨の回答を得た。その翌日である同月二二、三日ころ、長島は、清水とともに被皆方を訪れ、被告に対し、自己が不動産仲介業を営む原告の代表者である旨の名刺を渡し、すし屋のチェーン店を営むため土地を求めている人があるが本件土地を売却する意思がないか尋ねたところ、被告から条件次第で売却してもよい旨及び売買代金は坪当り三〇万円としたい旨の返事を得た。長島は、吉田の仲介依頼を直接受けたのではなく、妻を通じて受けたものであることから、被告から得た右の回答を吉田に伝えることなく、先に問い合わせのあつた太洋不動産に伝えた。そこで、当時太洋不動産に出入りしその従業員と称して吉田と応対していた不動産仲介業者の訴外河野清は、吉田に対し坪当り二九万円ぐらいの土地が見つかつた旨伝えて呼び出し、本件土地を見分した後、坪当り二八万円で買いたいとの吉田の要望に従い、被告に電話をかけて値引の交渉をし、被告からある程度値引をする旨回答を得た。そこで、若干の日を置いて、河野及び太洋不動産の専務が吉田を同道して被告方を訪れ、本件土地の売買につき交渉した結果、売買代金は買主吉田の希望価格に近い坪当り二八万五〇〇〇円とする旨及び売買契約は同年二月一〇日にする旨合意に達した。原告は、この間の売買の交渉に全く関与しなかつたが、その後同年一月二五日、長島が所要事項を記入した物件説明書をもつて清水とともに再び被告方を訪れ、被告に対し、買主に渡す必要上内容に誤りがないか確認して物件説明書に署名捺印して貰いたいと述べ、これに応じた被告の署名捺印を得た。この物件説明書の被告の署名欄の上には不動文字をもつて「上記物件の説明を受けました。ついては以後直接交渉により契約成立しても、規定の手数料をお支払い致します。」と印刷されているが、当時、長島はこの点につき被告に何も説明せず、報酬についての話は一切されなかつた。その後同年二月一〇日、長島、太洋不動産の専務、河野、買主吉田、売主被告が集まり、被告方において本件土地の売買契約書が作成され、ここに当事者間に争いのない本件売買契約が成立し、続いて、同年四月一五日、右の五名のうち河野を除く四名が集まり、墨田司法書士事務所において登記手続の委託等がされた。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する原告代表者及び被告本人各尋問の結果の各一部は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。<中略>

二次に、売買の一方の当事者から仲介の委託を受けた不動産仲介業者が、自己の仲介行為により不動産の売買契約を成立させた場合に、非委託者である他方の当事者に対しても商法五一二条に基づく報酬請求権を取得するというためには、客観的にみて仲介業者が他方の当事者のためにする意思をもつて仲介行為をしたものと認められることを要する。

ところで、前認定の事実によれば、原告は買主吉田の委託を受けて仲介物件を探し、売主被告の売却の意思及び売却条件を聞き出して本件売買契約成立の端緒を作つたとはいうものの、その後の実際の当事者間の仲介行為は、河野又は太洋不動産により、売買代金額を専ら買主吉田の希望条件に近づけるためにのみなされたものということができ、原告はこれに関与することがなかつたし、また、証人吉田実の証言によれば、原告が被告に作成させた物件説明書は、ついに吉田の目に触れることもなかつたことが明らかであり、かかる事情のもとにおいては、原告の行為は、結局委託を受けた買主吉田のために仲介物件を探し出しただけであるとの域を出ず、委託を受けない売主被告のためにする意思をもつてしたものにあたらないというほかない。また、右のような事実関係においては、民事仲立である原告の仲介行為につき商法五五〇条二項の類推適用の余地はないと解すべきである。

(久保内卓亜)

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